大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成7年(ワ)1586号 判決

原告

高橋正夫

ほか三名

被告

大嶋運送株式会社

主文

一  被告は、原告高橋正夫に対し、金四七二万五五四五円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告高橋一明、同高橋良晴及び同内田美智代に対し、各金一二二万二九八〇円及びそれぞれに対する平成五年一二月一四日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告は、原告高橋正夫に対し、金七二六万〇〇〇〇円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告高橋一明、同高橋良晴及び同内田美智代に対し、各金二〇九万〇〇〇〇円及びそれぞれに対する平成五年一二月一四日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件交通事故の発生(争いない)

別紙交通事故目録記載のとおり

二  責任原因(争いない)

自賠法三条の運行供用者責任

三  原告らの身分関係(争いない)

原告高橋正夫(以下「原告正夫」という。)は、あや子の配偶者であり、原告高橋一明(以下「原告一明」という。)は、長男、同高橋良晴(以下「原告良晴」という。)は、次男、同内田美智代(以下「原告美智代」という。)は、長女である。

四  原告らの主張する損害

原告らの損害は、別紙損害一覧表記載のとおりであるので、それぞれ内金請求する。

五  争点

1  過失割合

(被告代理人の主張)

あや子は、交通量の多い国道の交叉点内に進入するに際し、左方向の確認不十分の状態で進行したため、本件事故になつたのであるから、あや子にも五割の過失がある。

2  損害額

(被告代理人の主張)

老齢国民年金は、老齢者の生活の安定のための社会保障・社会政策的年金であるから、一身専属権で他の者が承継すべきではない。

第三争点に対する判断

一  過失割合について

1  事故態様(甲三の1から6まで、原告正夫)

本件交差点は、南北に通ずる幅員一五メートルの国道四六二号線と東西に走る本庄市道(西側幅員九・一メートル、東側幅員五・八メートル)とが交差しており、信号機は設置されていない。国道四六二号線は、片側二車線で、中央に分離帯が設けられ、両側には外側線が引かれ、縁石を隔てて両側には幅員三・五メートルの自転車通行可の歩道があり、アスフアルト舗装、平坦直線道路で時速五〇キロメートルの規制がなされ、優先道路の指定はない。

一方、本庄市道は、西側の上里町方面からは交通規制は何ら設けられておらず、反対側岡部町方面からは制限速度三〇キロメートル、一時停止の標識が設置されている。いずれも平坦であるが、見通しは悪く、同所には歩道橋はあるが、歩道橋上の自転車の通行はできず、約一五〇メートル児玉町方面に向つた地点には、信号機付きの交差点がある。付近には住宅が立ち並んでおり、そのため、本件交差点における自転車の横断は少なくない。

あや子は、当日午前九時三〇分ころ、本件交差点を上里町方面から岡部町方面に向かい横断していたが、当時は、小雨が降つており、雨合羽を着て自転車に乗つていた。走行速度は、時速五キロメートルないし八キロメートル程度であつた。

難波は、加害車両を運転して片側二車線道路の第二通行帯を北から南へ向い、時速七五ないし八〇キロメートルの高速度で進行し、道路不案内のため道路地図に視線を落としたり、前方左側に設置されている案内標識の方に注意を奪われ、衝突直前の手前約三〇メートル辺りで被害者を初めて発見して急制動が遅れて、折りから前方右から左へ自転車に乗つて横断中のあや子に加害車両の前方を激突せしめ、同人を一一・九メートル跳ね飛ばして、即日外傷性シヨツクで死亡させたものである。

2  双方の過失

右事故態様からすると、難波には、前方不注視と速度超過による徐行義務違反の過失が、あや子にも左方向不注視の過失があるが、本件交差点付近は、住宅が立ち並んでおり、自転車による横断も少なくない所であつて、あや子は、加害車両よりも明らかに交差点内に先入していることなどからみると、本件事故の主要因は、加害車両運転者の前方不注視の点にあるといわざるをえない。

しかし、被害者、加害者双方の過失の程度を勘案し、双方の過失割合を判断すると、あや子には、交通量の多い片側二車線の幹線道路を自転車で横断することは極めて危険であるにもかかわらず、横断をするに際して左方向の注視が不十分な落度が認められ、加害者と被害者との過失割合は、八〇対二〇とするのが相当である。

二  損害額

1  逸失利益(原告正夫、甲四の1から3まで、甲五)

あや子は、主婦として家庭を守り、夫の面倒を見る傍ら、夫とともに麹の製造販売に従事していたのであるが、当時六九歳(大正一三年一月二日生)で、なお、八年間はこれを継続できるので、女子労働者の平均賃金(賃金センサス平成五年第一巻第一表女子労働者学歴計六七歳以上)である年収二八四万二三〇〇円から生活費として半額を控除し、ライプニツツ係数六・四六三二を用いて当時の時価を算出すると、九一八万五〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)となる。

更に、あや子は、生前老齢国民年金を年額三八万八二〇〇円受領しており、平均余命年数の一六年間取得の継続が可能であつたから、生活費半額を控除し、ライプニツツ係数一〇・八三七七を使用して当時の現価を算定すると、二一〇万三〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)となる。

したがつて、逸失利益の合計額は、一一二八万八〇〇〇円となる。

なお、被告代理人は、老齢国民年金の相続性を否定するが、老齢国民年金自体は、一身専属的権利であるとしても、原告らは、被害者であるあや子の損害賠償請求権の相続性を主張しているにすぎないのであるから、同人の当時の収入としてはこれを考慮することは許されるというべきであるから、被告代理人の右主張は、採用できない。

2  葬儀費用(前掲各証拠)

葬儀費用としては、一二〇万円の請求の限度で認めるのが相当である。

3  慰謝料(前掲各証拠)

原告正夫は、生活の伴侶たるあや子を失つたのであるから、その精神的な苦痛に対する慰謝料としては、一〇五〇万円、原告一明、同良晴、同美智代の三名については、母を失つたことの精神的な苦痛に対する慰謝料としては、それぞれ、三五〇万円(総額二一〇〇万円)を認めるのが相当である。

4  損害の補填(争いない)

原告らは、自賠責保険から一九一五万八五〇〇円を受領し、原告正夫の損害金に九五七万九二五〇円、その余の原告らの損害金に各三一九万三〇〇〇円(一〇〇円未満切捨て)宛充当した。

5  弁護士費用

本件訴訟の弁護士費用としては、認容額の一割に当たる金額が相当であるから、原告らの請求は、原告正夫につき、四二万九五九五円、原告一明、同良晴及び同美智代につき、いずれも一一万一一八〇円が相当である。

三  結論

以上より、原告らの請求は、次の限度で理由がある。

(原告正夫について)

前記あや子の逸失利益の二分の一と葬儀費用及び固有の慰謝料の合計額の八割から填補額を控除し、弁護士費用を加算した四七二万五五四五円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払い済みに至るまで年五分による遅延損害金

(原告一明、原告良晴及び同美智代について)

いずれも前記あや子の逸失利益の六分の一及び固有の慰謝料の合計額の八割から填補額を控除し、弁護士費用を加算した一二二万二九八〇円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払い済みに至るまで年五分による遅延損害金

(裁判官 安井省三)

交通事故目録

発生日時 平成五年一二月一四日午前九時三五分ころ

発生場所 埼玉県本庄市小島一丁目一番三〇号先路上(以下「本件交差点」という。)

加害車両 事業用大型貨物自動車 三菱ふそう六二年式(登録番号相模一一き一六八二号)

運転者 訴外難波宏(以下「難波」という。)

被害者 訴外高橋あや子(以下「あや子」という。)

事故態様 難波は、加害車両を運転して片側二車線道路の第二通行帯を国道一七号線方面から児玉町方面に向かい進行するにあたり、最高速度が五〇キロメートル毎時を指定した道路であるのを知悉しながらこれを怠り、毎時、時速七五ないし八〇キロメートルの高速度で進行し、折りから前方右から左へ自転車に乗つて横断中のあや子に加害車両の前方を激突せしめ、同人を即日右事故に基づく外傷により死亡させたもの。

損害一覧表721586

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例